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所長のひとり言 14
秋になると思い出す景色がある。列車通学をしていたときの風景の一コマだ。
単線だったと思うのだが、湖周に合わせるように線路は緩やかにカーブを描きながら、西から東へそして南へと向かって走っていた。街も道路も今ほどに整備される前、そのあたりはまだ一面水田が広がっていた。秋晴れの日暮れ前、刈入れ時の田んぼは黄金色の波のようで夕日に照らされ波打っていた。西の山際にある秋の陽は、湖面に反射し水田地帯とちょうど帰宅時間に乗車する列車を照らし出す。車両はその光の中を進んでいくことになる。
列車は線路の弧にあわせ少し傾きかげんに進み、それにあわせて先頭の車両から徐々に夕日が当たり、光は車内いっぱい広がっていく。そして、弧の真ん中あたりで全車両が黄金色に輝く瞬間がやってくる。車内の誰の顔もまばゆく輝く、忘れられない風景となった一瞬だった。
この景色は忘れないでおこうとそのとき思った。心に残る景色はたくさん持ちたい。残してあげなくてはいけないのだと思う。

2008.11.1 三井一則 |